表具師 吉原光洋

みなさん、表具師という職業をご存知ですか?

昔からの日本家屋でみかける、掛け軸・襖・屏風(びょうぶ)・額・障子・衝立(ついたて)などの調製・加工・施工をするのが表具師さんのお仕事です。

近年では日本でも床の間のない家や、障子や襖のない家も多くなってきました。

最近の表具のお仕事の現状や魅力、また私たちの生活への取り入れ方について、今回は、新潟県白根市 で表具師として伝統を守り続ける吉原光洋(こうよう)さんに、新潟市南区にあり吉原さんもその保存・修復に携わる『笹川邸』にてお話を伺いました。

吉原光洋さんプロフィール】

1961年新潟県生まれ。 1980年4月二代目の父の下で修行を始める。1993年10月、表具作業一級合格。

1995年文化財保存修復学会(古文化財保存修復学科会)に入会。その年に阪神大震災で3日間ボランティアとして活動する。1997年第16回全国技能グランプリ 表具職種 第二位となる。

2007年JCP(特定非営利法人 文化財保存支援機構)。2011年12月JCP会員として、東日本大震災における岩手県文化財のレスキュー活動。

表具の仕事とは

まずはじめに、表具のお仕事についてお聞かせください。

表具の仕事というと、掛け軸、屏風、ふすま、障子、張替ですね。そのなかで、掛け軸がメインです。

-表具師になられたきっかけは?

まず、うちの初代が道具屋(骨董屋)だったんですね。私で4代目なんですが、2代目から表具を始めました。道具屋をやっていたのでそれを直せる表具屋ということで表具屋に。

昔なので長男が家業を継ぐのが当たり前で自然の流れでした。別に強制はなかったのですが、ものを作るのが好きだったので。

-お仕事はどういうところから依頼されるのですか?

個人の方の家にあったものが古くなってきたとか、コレクターの方や代々家にあって古いものが出てきたとか。個人の方が多いですね。

-大変なこと魅力的なことはどんなことですか

大変なことは作品がひとつしかないので失敗が絶対にできないということ。

例えば書道やっている方であれば100枚なら100枚書いた中の一番いいものを一枚もってこられるわけで、絶対失敗はできない。

魅力的なことではこんなことあがりました。ちょうど私のおじいちゃんが初代で、おじいちゃんが作ったものが50年後くらいたって、「お前のおじいさんが作ったやつだよ」っていって、ひと世代おいてでも戻ってきたことがあります。そのとき「あ~これをやっていてよかったなー」と。

それから、お客様がこれをボロボロになって捨てようとおもったのに、きれいになって驚いて、喜んでもらえた時ですね。

あとはあまりいいことはないですからね基本は裏方ですしね、名前は出ることはないですし()

表具師

掛け軸のデザイン

-掛け軸をみると、まわりの布との組み合わせで雰囲気が変わりますよね。

変わります。

そこはもう表具師さんにお任せなのでしょうか

お任せのときはこちらでやりますし、たとえばおばあちゃんの着物を使ってくれといって。形見ですよね。おばあちゃんの作品や自分の中でおばあちゃんの生地を使ったといって記憶のためにこの生地を使ってくださいということもあります。

-あの部分は何でできているのですか?

布です。西陣で作っています。表具用の。

最低限巻けないといけないのであまり厚いものではないです。

-サイズ何パターンあるのですか?

あります。昔の屏風とかのまわりに5,6センチの縁取りがありますよね?それは昔は帯からとったらしいんです。

帯が厚いので裏側を削いで薄くして、帯4等分するとあの幅になるらしいんですね。

この幅はもっと広くしたり細くしたりできるんですけどそれが基準になっているからだいたい6センチくらいですね。みんな理由があるんですよね。なんでこの幅なのかっていう理由が

そうですね。どういう風につくられているのかなと思っていたのです。

本当にもう、生地の状態でくるので、それに裏側から和紙を二度三度と貼っていって厚みを調整します。狂いがでないように性質の違う紙を使ったりして。

掛け軸に使われる正麩糊とは

-その糊は何を使っているんですか?

基本は正麩糊(しょうふのり)なんですが、今は99%化学糊ですね。主原料は、酢酸ビニルエマルジョン+CMCと言う増粘剤で構成されているようです。商品名は「いちばん糊」「片岡糊」「梓」などが有り、少しずつ割合が違うようです。個人的には最近は、生麩糊を自分で煮て使用することが多くなりつあります。全体の割合から行くと30%くらいは生麩糊を使用するようになりました。本当は100%生麩だけを使用する仕事をしたいのですが、時間、予算、考え方など様々な理由で科学糊もなしには出来ません。

正麩糊は小麦粉でんぷんからっているんです。だから家庭でも作れるんですけれど。普通の小麦粉から作っていたのは23日で夏場だと腐ってきます。不純物が入っていないので。

50年後、100年後考えたときに作りなおしますよね?その糊を使うと100年でも200年でも何回でも掛け軸を作り直せます。

最近だと機械でつくる表具もあって、機械だと80度くらいの鉄板をあたためて、アイロンワッペンのように熱で接着するものもあります。樹脂を溶かすフィルムみたいなもので。それだと早くできるし濡らすことをしないので、いい面もあるのですが80度の温度がいるので、熱でもって絵の具とか墨の色が変色したりしますね。将来的に剥がすときに作品をめることがあるかもしれない化学糊だと、樹脂分が残るので、それを取り除く薬品をまたpH値から検討する作業をしないといけないのです。

一度ですまないので作品自体にダメージをあたえてしまうので、正麩糊が残すためには適しているということです。

まだ正麩糊を超える接着剤はできていないですね。

-巻くことができて、持ち運びできるとはうまく考えてありますよね。

掛け軸はコンパクトに収納でき、光とか空気に直接触れないので、額はほとんど残っていないけれど、掛け軸はたくさん残っているのだそうです。小さくなるので昔火事が多かった時代も持ち出せたといいますし。

昔は、みんな井戸があったので、井戸に桐箱ごと投げて逃げた、なんていう面白いお話もありますね。

実際は勇気がいりますけどね(笑)

技術の向上で心掛けていること

-吉原さんがこの技術の向上に心掛けていらっしゃることはどんなことでしょうか?

料理でもなんでもそうだと思うのですが、とにかく自分の道具を毎日手入れして。基本ですね。

定規を常にまっすぐに保つとか、切れる刃物を常に用意しておくとか。

そういうのでしょうかね。

あとは数やっていけば、上手になっていくと思います。少しずつ時間かかっても繰り返せばうまくなっていく。だんだん下手になっていくひ人ってあまりいませんよね(笑)年齢的なものや体力的なものが落ちなければ。

きのうの切れ味と今日の切れ味が変わっていたら、もう同じことはできないので、道具の手入れとか、体調管理とかですかね。

表具師 吉原光洋

表具で使う考え抜かれた道具たち

道具のお話がでたので、お仕事で使われているいろいろな道具を見せていただけますでしょうか。

表具師 吉原光洋

<丸包丁>

角が丸くなっていて、掛け軸の周りの布を切る道具。先端が丸くなっていることでしっとりと切れるという。

表具師 吉原光洋<出刃包丁>

細工の時に使う。

表具師 吉原光洋

表具師 吉原光洋<合わせ定規>

アクリルやプラスティック定規だとしなって曲がってしまうため、木でできているあわせ定規。

穴があいていて、そこでふたつの定規をあわせ、隙間から日が通らなくなった時点でまっすぐとわかる仕組み。この定規をまっすぐにするためにカンナをかける技術も必要。

表具師 吉原光洋刷毛>

打刷毛うちばけといって上からたたき、上と下の紙をかみ合わせてくっつけるためのもの。

津久毛つくげという植物でできた毛で、堅さが3種類くらいあり、使い分ける。

 

こういう道具が欲しいと思ったら自分で作ることもあるんですね?

自分の好みがあったり

手も含めて道具の一部になってきます

だからね。わざわざ筋トレをしないという人いましたよ。筋トレなんかして一か月くらいたつと加減が変わるので()。

そこまでいいんじゃないかとは思うんですけど(笑)。

表具師 吉原光洋微妙な差がでるんですね。年齢によっても違いますね?

年齢によっても変わりますね。季節でも違いますし。

料理番組でたとえばてんぷらを揚げているとき、音がかわるという話を何度とか聞くと、”これは糊の濃さにつかえるな”と思ってやってみます。ぱらぱらっと糊を落とすとやっぱり音が変わるところがあるんですよ。粘度でもって。一応やってみます(笑)。

表具師 吉原光洋身体が一番の道具ですね。

ひとがいるときはしませんが、家で酒を飲んだりするときはわざと左手で箸をもってみたり。

理想は両利きなんですね。場所によっては左手でカッターを使わないといけないということもあるので。ある程度つかえるといいなと。わざと左手で食べてみたりね。お客さんがいるときはしませんが(笑)。

見直される日本家屋の魅力

-現在では、どこの地方にいっても同じような家屋が立ち並び、その町のというのが失われているように思います。

上手に自然とつきあっていかなくても完全に遮断してしまうっていうか。

どっかのタイミングで戻ると思うんですけどねぇ。

-それでもすこし日本家屋は見直されてきているのでしょうか?

それを守ろうという宮大工系のグループがあるんです、そうすると、そこはそこで何とか保存しようと、保存会的な動きになるのでどうしても、”広まる”ところまでいかないですよね。

愛知県にあるジブリの『サツキとメイの家』は宮大工さんがつくったらしくて、あれを作るのに京都にしかいない職人さんを呼んだりしたようですね。

あれは和洋折衷の建物らしくてとってもいいです。昔のいいとこどりというか、本当に効果的につくってあります。名古屋万博のときに行ってみてきましたけど。今もあるはずです。

本当にあの絵と同じ。

こういう建物にくると匂いも安心する要素のように思います。木とか畳の匂いなんかもなにか安心するというのはやはり日本人なんでしょうかね。

木や土壁が雨の日は湿気をすってくれて、湿度を一定に保つみたいですね。

昔土間とかってひんやりしていましたよね?上手につきあえば、本当に、もっと、まぁエアコンがいらないとはいいませんが、自然な風とか利用できれば涼しく過ごせますよね。

-自然な風は、いいですよねぇ。

エアコンを夜中つけておくとやっぱりね。暑くてつけますが、朝になると風邪ひいていたりとか。いまの技術なら自然な風をエアコンで作れそうですよね。ほどよく湿気のあるようなね。()

いまでもお寺とかにいくと涼しいですよね?扇風機だけで十分ですよね。天井が高いし。

考え方の基本は、”自然の風ですよね。

-日本の空の色や木に合うのもそういう家屋のように思うのですが・・・

ああ、そうですね。日本の原風景みたいなね。

-そうですねー。

いまの私たちが表具を身近に楽しむには

-表具は私たちの生活からいまかけ離れていて、ものすごく高額なのだろうなとか、掛け軸もあまり手にふれてはいけないような感覚があるんですが、自分たちの生活の中でもう少し身近に楽しめるようになるにはどうしたらよいのでしょうか

いまは家のつくりが床の間のない家が増えてきて、掛け軸を床の間に飾ることを知らない人も出てきています。

もっと気軽に考えて、玄関とか廊下のアクセサリーみたいに、はがきサイズの小さいものも出てきていますし、花を飾ったりグッズをおくような感覚でよいと思うのですよね。堅苦しく考えずに。

表具師 吉原光洋いいものは誰がみてもいい

私が子供のころに住んでいた家では、季節ごとに掛け替えたりしていましたが。

季節や催し物ごとにね。

はい、そうですね。そうやって掛け替えたりして楽しむには何か知識がいりますか?

絵だったら季節の花とか風景とかが出ていますので。色使いも、たとえば夏であれば淡い水色や、秋であればえんじ色やああいった系統の色を使ったり、みた直感でわかったりするので単純に考えてもらった方がいいですね。

色で季節感がでてますね。模様に川の流れの模様をつかっていたりと、感じたイメージでかけてもらったらいいと思います。

気軽に楽しむということですね

道具屋さんとかギャラリーをやっている店主さんもみなさんおっしゃることは、知識はいらないということです。

本物いいものというのは素人がみてもプロがみても絶対いいんです。

もしそれがわからなかったら、二流というか大したことでないので

瀬戸物でも絵でもなんでも「いいものはいい」、説明しないとわからないようであれば大したものではないという言い方をしてますね。

普通のものと本物と、こう、比べてみると本物の方がね。

瞬間でわかるひとと、一か月後に気づくひととそれはあります。

道具屋さんが目利きを育てるとき、お弟子さんに瀬戸物でも絵でもなんでもいいから、本物だけを1年、2年見せ続けるのだそうです。そうすると、ぽっと偽物がはいったときに違和感を感じるんだそうです。そのときに本物をみたり、偽物をみたりするとだめなんだそうです。

いいものも悪いものを両方みていると時間がかかります。

-そういう環境を作ることは、なかなか難しいのではないですか?

美術館や博物館には本物しかないので、勉強とかではなく定期的に見て回るようにすればいいんですね。

コレクターの方々はいいますが、いいものを最初に見てしまうと中途半端なもの欲しくなくなる。道具でも凝っていくと最後には高いものにやっぱり手を出しますよね。

それまで不安だから安いものから手を出すとその間無駄になるので最初からいいものを見たほうがいいって言ってましたね。なかなか難しいですけどね()

表具師 吉原光洋

次の世代につなぐために残すもの

最後に目標や夢をおきかせください。

いつか次の世代かその次の世代に日本は湿気があって、自然のクーラーの風が痛いとか冷えすぎていやだという人いますけど、自然の風をもっと少し上手に使って、そういう自然の流れを使った建物に戻った時にまた見直されるときが来ると思うんです床の間や日本家屋が。

自然の流れをつかった建物を見直されてきたときに、30年後くらいに生まれてくる人たちが世の中で働くようになったときに、こういう作り方とかいうのが、ひと世代飛んでしまうので、その人たちがみてすぐわかるように資料的なものを残しておきたいと思っています。

 

表具師 吉原光洋

吉原さんご自身もおじいさまの作られたものがひと世代を超えて、吉原さんに巡ってきたことに、この仕事の魅力を感じるとおっしゃっていました。そのようにひとからひとへ、手からて手へと継がれていく技を私たちは心から味わうべきだなと感じます。そこには職人のみなさんの絶え間ぬ努力と精神が積み重ねられているのだと。

吉原さん、貴重なお話をいろいろお聞かせいただきありがとうございました。

 

吉原光洋さんの活動はこちらから

ホームページ http://yoshihara999.com

吉原さんの動画はこちらでご覧いただけます

https://www.youtube.com/watch?list=UU2J2Wh1M516Igx69X3Dqkmg&v=CSC8dN_Lgik

 

取材を終えて……

私自身子供のころにはいわゆる床の間があり、畳の生活をする日本家屋に住んでいました。今も床の間こそありますが、季節ごとにかけかえたり、その空間を楽しむということは全くできていません( ; _ ; )

そして何ヶ月かぶりに客間にはいり床の間を眺めてみたという始末(笑)

客間にあるためにほとんど家族が目にすることもない掛け軸。

感じたままにもっと気楽に花を飾るように、掛け軸を掛け替えることを楽しんでみようと思います。

「いいものは誰がみてもいい」という吉原さんの言葉がとても力強く印象的でした。いいものを見ること、いい音を聴くことの大切さを改めて感じました。これからもいいものをたくさん感じていきたいし、お伝えしていけたらなと思います。

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